ストーカーによる凄惨な事件が発生
2016年5月21日午後5時過ぎ、東京都小金井市のイベント会場でストーカーによる凄惨な事件が起こってしまった。
被害者と加害者の関係は1人のアイドルと1人のファンだという。
アイドルに想いを寄せるファンであった容疑者は何故ストーカーとなり、このような事件を起こしてしまったのだろうか?
2016年5月22日 日刊スポーツより引用
冨田さん警察に相談…ツイッターに「君も死ぬ」
アイドルとして活動し、都内私立大学に通学するTさん(20=武蔵野市)が21日午後5時すぎ、東京都小金井市のイベント会場でファンの男に首や胸、背中、両腕など全身20カ所以上を刺された。病院に運ばれたが、意識不明の重体で心肺停止の状態。警視庁小金井署は、傷害の疑いで住所職業不詳、自称I容疑者(27)を現行犯逮捕した。Tさんは、同容疑者からツイッターで誹謗(ひぼう)中傷の書き込みをされており、武蔵野署に相談していた。
警視庁によると、Tさんは5月に武蔵野署に、I容疑者の名を挙げて「ツイッターに執拗(しつよう)に書き込みをしている」と相談していた。Iさんのツイッターアカウントには、同容疑者のものとみられるアカウントから1日に何件も書き込みがあった。京都在住で、2年前にTさんを知ったと書き込まれている。4月16日には「君も僕もいつか死ぬんだよ。死んでしまうんだよ。大事に生きなきゃね」、同19日に「『死にたい』って言ったらあなたは『死ねば』って言ってくれますか」と書き込んでいた。
Twitterの書き込みから解る執拗な執着心
容疑者が居住していたマンションは、東映京都撮影所に近い京都府京都市右京区にある住宅街。
隣人男性(71)の話では、「数年前に引っ越してきた際、菓子折りを持ってあいさつにきてくれた。若いのにきちんとした人だと感じた」と語っているという。
しかし、身近なアイドルに執着し過ぎた末、拒否反応を示された結果、「恋心」が徐々に「憎悪」へと変貌していく様子が、Twitterの書き込みからも判断できる。
しかし、普通の人は「恋心」が「憎しみ」に変わったとしても道徳的な理性で抑えられるのだが、それが出来なかった容疑者。
何でも相談できる友人・親族・同僚などがいれば、何かが変わっていたのかもしれない。
SNSなどで個人の情報を収集しながら一方的に想いを募らせたと思えば、あるきっかけを境に中傷を繰り返しながら衝動的な行動を起こす可能性もあるという点では「SNSストーカー」と呼べるのかもしれない。
被害者となってしまった女性の将来を奪った容疑者の行動は決して許されるものではないのだ。
※SNSストーカーについては下記をご覧ください。
2000年ストーカー規制法の施行
1999年に埼玉県桶川市で起こった「桶川ストーカー殺人事件」がきっかけとなり、「ストーカー規制法」という新たな法律ができ2000年に施行された。
当初の「ストーカー規制法」では、「恋愛感情」などから被害者や家族に対しての「つきまとい行為」を規制するとともに、連続して電話することなども禁じているが、当時は一般的ではなかった「メール」の送信は規制対象外となっていた。
2013年ストーカー規制法の改正
2012年に神奈川県逗子市で起こった「逗子ストーカー殺人事件」がきっかけとなり、2013年に改正された。
同事件では、容疑者が被害者に1000通以上の「メール」を連続して送信しており、一般的な通信手段となった「メール」が規制対象に追加されている。
また、同法改正の際には新たなコミュニケーションツールとして一般的になってきているSNSの規制も提案されていたが含まれなかった。
警察が動けないストーカー規制法では意味がない
この事件で重要となる被害者の行動がある。
それは、事件前から身の危険がともなう重大な事態に発展するのではないかと危惧していたという点だ。
Tさんは5月9日以降、居住先の最寄りとなる武蔵野署へ複数回に渡ってI容疑者の件について相談をしており、警視庁はSNSを利用したI容疑者の執拗なストーカー行為に対して確認していたと判断できる。
しかし警察は動かず、事件当日I容疑者はTさんと接触するため自宅のある京都府より新幹線で上京。
2~3時間もの間、武蔵小金井駅で待ち伏せし、犯行に及んでいる。
動機や凶器となったナイフに関しても「殺すつもりだった。刃物は事前に用意した。」などと供述している点、SNSやブログへ犯行予告とも思える書き込みをしている点などからも計画的な犯行であることは間違いない。
警視庁がI容疑者に対して「ストーカー規制法」を適用できなかったのは、TwitterなどのSNSでのメッセージの送信は「改正ストーカー規制法」でも対象外となっていたからだろう。
「改正ストーカー規制法」では新たに電話や電子メールなどは規制対象に追加されたのだが、SNSで何度も誹謗中傷メッセージなどを送信しても「つきまとい」「ストーカー行為」とはみなされないという盲点があったのだ。
特定の相手とやり取りをする「メール」、不特定多数に発信する「SNS」では利用方法に違いがあり、Twitterや無料通信アプリLINEなどは「メール」とみなすことはできないという。
この点に関しては、「改正ストーカー規制法」の施行当初から問題視されており、現状に至っている。
違う形で言い換えれば、日本の法律が進化の早いインターネットメディアに対応していない証拠とも言えるのだ。
「改正ストーカー規制法」でSNSが明確な規制対象となっていれば、今回の問題で警視庁はI容疑者に対して「ストーカー規制法」を適用できたのかもしれない。
都道府県が「迷惑防止条例」を改正
法律ではないのだが、「改正ストーカー規制法」の盲点を補う目的で「迷惑防止条例」を改正している都道府県などもあるのだ。
例えば、ラブ探偵事務所が所在している千葉県では、LINEやTwitterなどで個人へ執拗なメッセージを送ったり、インターネット上で人を誹謗中傷するなどの行為を「迷惑防止条例」に追加し、対応している。
また、このような条例は、群馬県・静岡県・京都府などの複数の都道府県でも導入されているのだ。
「改正ストーカー規制法」では、「恋愛感情」のある場合に限って連続したメールの送信などが規制の対象に追加されたため、加害者側に「好意」があることを立証しなければ適用できなかった。
しかし、千葉県の条例では「恋愛感情」がない場合であっても、嫌がる相手に連続でメールを送るなどの行為は「ストーカー」とみなされ、「恋愛感情」の立証ができない嫌がらせなども規制対象とすることが可能となっている。
また、LINEなどの無料通信アプリやTwitterなどのSNSを網羅することで、規制の幅が広くなりインターネットでの問題にも柔軟に対応できるようになっている。
具体的に千葉県の「迷惑防止条例」で「ストーカー」の規制対象となった点としては次の9つの項目がある。
- つきまとい・待ち伏せ・立ちふさがり・見張り・押し掛け
- 監視等により行動を把握していることを告げる行為
- 面会などの義務のないことの要求
- 虚偽の事項を告げる行為
- 乱暴な言動
- 無言電話
- 連続電話・連続ファクシミリ・電子メール等の連続送信
- 汚物などの送付
- 名誉を害する事項を告げる行為
真の「ストーカー規制法」とは?
「メール」「電話」「ファックス」などとは違い、SNSは悪意あるメッセージなどは個人の意思でブロックができるという見解で「改正ストーカー規制法」は含まれなかったようだ。
しかし、誹謗中傷を繰り返す「ネットストーカー」のフォローやメッセージをブロックしたとしても、SNSでの「ストーカー行為」は止むどころかエスカレートしていき、その他のさらなる重大事件に発展する可能性がある。
真の「ストーカー規制法」とは、各時代に対応した規制範囲とすることで早期に警察が介入できるようにし、「ストーカー行為」を行っている人物に抑止をかけること。
そして場合によっては、「ストーカー規制法」を適用して検挙することではないだろうか。
もう凄惨な事件を起こさせないためにも、一刻も早い「ストーカー規制法」の改正を求めている。